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――2016年4月――
「あの……、落としましたよ」
私の背後で優しい声がした。
その声に懐かしさを感じ振り向く。
そこに立っていたのは見ず知らずの男性。
彼の手には花柄のハンカチ。
ハンカチの絵柄はピンクのガーベラ。
「それ、私のハンカチではありません」
「あれ?別の女性だったかな?しまった、どうしよう」
彼は周囲を見渡し焦っている。
困り果てている彼、ハンカチを放置するわけにもいかず、数メートル先にある派出所まで一緒に同行し、派出所で拾得物としてハンカチを届ける。彼の名前は幸村奏(ゆきむらそう)さん、28歳。私より7歳年上。
「ハンカチ1枚をわざわざ届けるなんて、君は随分律儀だね。これはまだ新しいハンカチだな。シールがついたままだ」
派出所の警官は、ハンカチにデザイナーのロゴが入ったシールを見つけ、購入したばかりだろうと推測した。
「すみません。あなたにまで付き合わせてしまって。本当に申し訳ない」
派出所を出ると、彼は私に何度も頭を下げた。
「もしよければ、お名前を聞かせていただけますか?」
「夢崎麗(ゆめさきれい)です」
誠実で真面目な人柄。
それが彼の第一印象。
――翌月、雨宿りの本屋で彼と偶然出逢った。
ずぶ濡れの彼に、私はハンカチを差し出す。
「……すみません。お借りします。必ずお返ししますから」
「いえ、お気になさらずに」
――翌々月は駅前の花屋さんで偶然出逢った。
彼はピンクのガーベラの花を買っていた。
ピンクのガーベラ……。
ふと、5年前のことが記憶に過ぎったが、あの時の青年の顔は思い出せず、名前も幸村ではなかった。
「夢崎さん……。先月、ハンカチをありがとうございました」
彼は鞄から私のハンカチを取り出す。
ハンカチは洗濯され、綺麗にアイロンがかけられていた。
「よかったら、雨が止むまで近くのカフェで珈琲でもいかがですか?」
「……はい」
度重なる偶然に親近感を抱いた私達は、自然の流れで交際を始めた。初めての彼。デートを重ねる度に私は彼に惹かれていく。鼓動はトクトクと幸せの音を奏でた。
◇
「あの人を好きになってもいい?」
私の一番大切な友達に、彼のことを相談する。
「とても誠実で、優しい人なの。不思議なんだ。ずっと前から知っていたような気がするの」
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