93人が本棚に入れています
本棚に追加
――2011年6月――
交通事故で脳死と判定された16歳の少女、幸村麻耶(ゆきむらまや)。僕の恋人。
麻耶は愛らしくて、母親思いの優しい女性だった。
僕の母と麻耶の母親は友人同士で、僕達の交際は家族公認だった。僕の両親は娘のように麻耶を可愛がり、麻耶の母親も息子のように僕と接してくれた。
僕は3男だったため、将来幸村家に婿養子となることも家族間で勝手に決められていた。僕は麻耶と一緒にいられるだけで幸せだった。
麻耶は将来看護師になりたいと夢を語り、生前にドナー登録をしていた。麻耶の母親は彼女の意思を尊重し、臓器は複数の患者に提供された。
麻耶の母親は号泣する僕を抱き締め『麻耶の死は悲しいけれど、どこかで生きていると思うだけで、私も生きていける。多くの人の命を救った娘を誇りに思います。いつかまた……あの子と逢えるわ』と気丈に話した。
でも僕は……
最後まで、麻耶の死を認めたくなかった。
――同年12月。
麻耶の死から半年……。
僕は偶然SNSで臓器提供を受けた少女のブログを見つけた。その少女のブログから、移植手術を受けたのは今年の6月、ドナーは同年齢の女性であることがわかった。
僕はそのブログに衝撃を受けた。
と、同時に胸に熱いものが込み上げる。
涙がぽろぽろとこぼれ落ち、麻耶に逢いたいと思った。
少女の退院をブログで知り、病院名より所在地を調べる。少女の入院先は都内の大学病院だった。
退院当日、僕は麻耶がアルバイトしていた花屋で、麻耶が好きだったピンクのガーベラと霞草の花束を買う。
――君にプレゼントするために……。
最初のコメントを投稿しよう!