200?年 春……

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「私はもう、酸いも甘いも嗅ぎ分けたわ……」  少し茶色に染めたセミロングの髪を揺らし、もう何杯目かのカシスオレンジが入ったグラスを傾けながら、アイはそうポツリと言い放った。  京都市内にある、大学生がよく行くような安い居酒屋。  窓の外、ビルの隙間から覗く空はまだオレンジ色の夕陽が照っている。  傷が何重にも入った分厚いダークウッドのテーブル。  そこにはシーザーサラダや軟骨の唐揚げやポテトフライに混じって、飲物が乱雑に並べられている。とりあえず腹を満たせて酔えたらいい。昨今のグルメブームとは対極のそんな品々。  周りの喋る声がうるさくて、隣にいる仲間の声さえ、よく聞こえない。  ハタチそこそこの小娘が何を言ってんだ。  今の僕なら、冷静にそうツッコミを入れると思う。  でも、その時の僕は大学に入学したばかりの十八歳。  彼女の潤んだ瞳、長い綺麗なまつげ、ほんのり桜色にそまった頬、何よりその人生を達観したかのような表情に、一瞬にして僕は虜になった。  
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