200?年 春……

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 アイと初めて出会ったのは、大学の英語サークルの飲み会。  五月の連休も終わり、繁華街の呼び込みのようにやかましいサークルの新歓の時期も落ち着いたちょうどそのころ。  居酒屋でたまたまテーブルが一緒になったのが彼女だった。  大学のサークルは大所帯が多い。何回かその英語サークルには顔を出していたが、アイと顔を合わせたのは、その時が初めてだった。  盛りのついた大学生の話題なんて、恋愛の話と相場が決まっている。  高校の時からの彼女と今でも付き合っているだの、心機一転新しい恋がしたいだの、夏までに彼氏が欲しいとかそういう多愛もない話題。  そんな中での、冒頭の「酸いも甘いも経験した」発言だ。  僕は、アイがいったいどんな経験をしてきたのかとても興味を持った。しかしそれは隣の日焼けしたガタイのいい男によってすぐに違う話題に書き換えられてしまったのだった。  結局、その日はそれ以上アイの話を聞くことが出来なかった。  他の多くの新入生がそうだったように、僕もサークルを絞り込まずにいくつか掛け持ちのようなことをしていた。 「大学に入ったら、やっぱ英語くらい喋れるようにならなきゃな」  とか思いながら、結局僕もアイも、その英語サークルをフェードアウトすることになる。  あとは僕は大半の大学生活を、勉強やバイトや史跡巡りに費やしたので、英語なんて、身につかなかった。  安い酒に頭がクラクラになりながら、一緒のテーブルを囲んだ仲間同士連絡先の交換をして、その日はお開きとなった。  まったく、生産性のない集まりだ。
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