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生まれ育った海辺の街を出て、初めての一人暮らしを始めた僕。
正直、一人の夜の時間を持て余していた。
アイとのメールや電話はすぐに僕の心の中で確実に大きな存在になっていった。
音がないと寂しいのでとりあえずBGM代わりにつけているテレビを横目に、親指でブラインドタッチをして、送信ボタンを押す。
メールの返信が来ないと、気持ちがあせる。
何回もセンターに新着メール問い合わせをしてしまう。
アイは電車で一時間ほど離れた大阪のベッドタウンの実家から大学に通っていて、バイトも頻繁にしているようで結構忙しいようだった。
「ごめん、お風呂はいってたー」
「バイト終わったとこ。お疲れー」
少し時間が空いて、そんな返事が来るだけで安堵する。
ほんとはもっとメールを送りたい本心を、見せかけの大人の余裕でなんとか押さえつける。
アイとは学部が違うから、とっている授業も全然違う。
唯一日本史の一般教養だけは一緒のものをとっていたが、彼女は女の子の友達といつも授業を受けていたので、僕はアイと短く挨拶をして、アイの横顔が見える少し離れた席に陣取っていた。
キモい!? そんなことを言ってはいけない。恋するオトメの極めて自然な行動だ。
前期のテストが終わっていよいよ夏休みに入ろうかという季節。
試験の打ち上げ、とかそんな名目だったかと思う。
どちらから誘ったのか忘れたが、アイと二人っきりでカラオケに行くことになった。
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