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カラオケからの帰り道、土産物屋や若者向けの古着屋が軒を連ねる寺町商店街をアイと二人、並んで歩く。
七月、寺町商店街はアーケードになっているが、それでも涼しい室内から出た僕らには暑く感じられた。
平日の、昼下がりの商店街、こんな時にブラブラしている人はそれほど多くない。人影はまばらだ。
アイは歌い終わってスッキリしたのか、とても嬉しそうな表情を浮かべていた。
彼女はこのあとバイトがあるらしいので、このまま寺町通りを南下して、彼女を阪急電車の河原町駅まで送っていくことにした。
商店街の一角にあるゲームセンターには、当時まだ流行っていたプリクラがあった。
「マサルくん、せっかくだから一緒に撮ってみる?」
微笑みながら、アイは僕を誘った。
カーテンで仕切られた狭い空間。
僕の心臓はさっきからアラーム音が鳴り響いている。
意中の女性とこんな間近で二人っきりとか、ウブな男子大学生には刺激が強い。
彼女の半袖のカジュアルなシャツから覗く白い肌でさえ、僕の心をさらにドキドキとさせる。
アイは慣れた手つきで、モニターを操作してプリクラのフレームを選んでいた。
「これにしよっか? じゃあ、撮るね」
「う、うん……」
彼女は僕の方に顔を寄せてきて、一回目のフラッシュが光った。
彼女の色白の頬、そして綺麗なまつげが、思ったよりも近い距離にあった。
アイの化粧の香りか、シャンプーか、ほんのりと、甘い匂いがした。
僕はもうただ、それだけで幸せだった。
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