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うっすらと光の差し込む開けた場所に出た青年は思わず声をあげた。そこには小さな神殿がひっそりと佇んでいた。ところどころ崩れ倒れた柱もあるが荘厳と存在するそれに圧巻の声をあげたのだ。差し込んだ光に照らされ、そこだけがどこか別の世界の様にも思える。
歌声は神殿の中から聞こえていた。ゆっくりとその空間に足を踏み入れた青年は神殿に近づいていく。その時、歌声が止まった。
「誰だ、お前は」
代わりに聞こえてきたのは、そんな言葉で驚いた青年は顔を上げる。視線の先にいたのは1人の少女だった。
不機嫌そうに眉を寄せてはいるが、長い睫毛に縁取られたアーモンド型の瞳に小さな艶のある唇。幼さを残しているが美人だ。おまけに射る様な鋭い視線に動きを止めてしまう。
ぼんやりと見つめていると彼女の唇が歌う様に動く。
「お前は、なぜここにいるんだ」
その言葉に青年は小さく唸って答えた。
「何故か、と言われても俺にも分からないな。気がついたら森の中に居たんだ。ここに来たのは歌声に誘われたからってとこか」
そんな青年の言葉に少女はますます眉をひそめ、青年を睨む。
「そんなわけ、無いだろう。ここは人間が来るところじゃない。それなのに、なんでお前の様な奴が……っえ」
青年をよそにぶつぶつと不満を呟いた少女は急に小さく声をあげた。
その声に何だ、と青年も少女を見つめる。
「お前、ちょっと来い」
「はあ、何で」
「いいから、早くしろ」
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