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「僕は……通わせたいんだ」
「通わせたいって……真(まこと)……」
さすがに答え返してくれるのは気丈夫な母だ。
物事に動じる事が少ない母の性格は祖母の血を引き継いでいるのだろう。
その祖母は口を開かずじっと静かに兄を直視し、紡がれるであろう言葉を待ってくれている。
「こ、公立が嫌なら、別に私立でも好きな学校へ……」
「違う。お祖父ちゃんの行ってる女子校がいいんだ」
「どうして?あそこは……!」
「僕は……琴を……琴を通わせたい」
「こ……と?」
兄の心痛な声に一同息を飲むのが判った。
8畳間の部屋に重く緊張感漂う空気が流れる。
私の心臓が喉元を駆け上り口から飛び出してきそうだ。
思わず伏せていた視線をゆっくりと上げて、突き刺さる家族の視線に向き合う。
みな畏れを露に瞬きもせず固唾をのんでいた。
「……お願い、僕は12年間みんなに甘やかされて好きな事をさせて貰ってきた。
だから、この先12年間は……大人になるまでは琴を大切にしてもらいたいんだ。
琴を、女子校に行かせてあげてください」
とても小学6年生とは思えない様で、兄は深々と五指を畳につけ、頭を下げて家族に頼み込んだ。
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