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沈黙が流れる。
誰も何も言わない、言えない時間が流れた。
琴……私は息も出来ないほど部屋中の空気に押し潰されそうになって、小さくなった。
我が家は嫡男重視、とまではいかずとも、男の子である兄を可愛がっていた。
兄が産まれた時、自分たちに女の子しか授からなかった祖父は諸手を上げて涙し喜んだ。
入り婿の父は肩身の狭い思いをしていた訳でもないのに胸を撫で下ろし、跡継ぎが出来たと母共々手をとり涙を流したのだ。
男の子を何処の家よりも望んでいた家に産まれた兄を何処の誰よりも慈しみ愛し、愛でていた家族。
その兄の唐突な言葉と態度に、一同呼吸をするのも忘れて凝視した。
「僕を大切にしてくれているのと同じように琴を大切にして欲しいんだ。
琴を、琴の望む学校へ行かせてあげて欲しいんだ」
真摯に紡ぐ言葉に戸惑いながらも反応したのは祖父だった。
「バ、バカを言うな!何を言い出すのかと思えば……」
その声に体が強張り萎縮する。
込み上げてくる涙を必死に隠して唇を噛んだ。
すると、
「良いではありませんか」
「お、まえ……」
「真がそう望むのでしょう?」
祖父の憤慨する声を遮り、普段から物腰柔らかな祖母は湯呑みを手に取り直し凛とした声を発した。
それには祖父も閉口し、パクパクと魚のように口を動かす。
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