【発端】

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「いやぁ、沢村よぉ。 今夜の桜は、本当に綺麗だよなぁ」 旧友の吉岡が、口を開いた。 「そうだなぁ」 私も、それに応える。 確かに、今夜の桜はめちゃめちゃ綺麗だ。 私は、枝いっぱいに咲き誇る濃いピンク色した桜の花々に思わず見とれた。 今日は、 ゴールデンウィーク初日の晩。 ここは、 私が住むアパートの近所の公園。 北国・北海道には、桜前線が本州より少し遅れて上陸する。 従って、ここ札幌の桜のシーズンのピークは、この時期…ゴールデンウィーク中なのである。 現在、大学生の私と吉岡は小学校時代からの幼なじみで中学、高校も一緒… まあ、大学はお互い別々の学校に通うようになったのだが、今でもこうして交流を続けている、いわば腐れ縁の仲だ。 私は現在、スポーツが盛んな大学に通っていて、柔道部員。 一方、吉岡は文系の大学に通い、様々な古今東西の小説を読み漁り、大の読書家だ。 ある意味…それぞれにタイプが違う私と吉岡だが、お互いに妙に気が合い、時々、こうして今夜の様に二人で会ってあれこれと話に興じているのだ。 「ところで…沢村よ。 一般的に日本で咲く桜の代表格ってのは、ソメイヨシノだよな」 唐突に吉岡がそんな事を言って来た。 「まあ…そうだな」 「しかし、知ってるか? 実際のソメイヨシノの花は、今、俺達が見ているようなこんなに濃いピンクではなく、もう少し白っぽいピンクなんだ。 実は、だな。札幌のあちこちで見掛けるこの桜は、エゾヤマザクラといって北海道だけにしか生えてない品種なんだぜ」 「ほぉ…詳しいな」 何でも… 吉岡の話によると、彼が今の大学で所属している文学ゼミの竹松という教授は、文学のみならず植物にも精通していてそちらの分野でも深い研究をしているんだそうだ。 (って、受け売りかよ!笑)
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