距離

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昔は好きな人がくるだけでドキドキしたり、話しかけられただけで嬉しかった。 横顔に見惚れたり、良いことがあったその日は世界が薔薇色に輝いた。 嘘ではなく本当に『薔薇色』なのだ。 空は絵で描いたような空に見えるし、全てが煌めいていた。 辛いことがあっても、『○○くんに会うためにまた頑張ろう!』と生きる活力になった。 そんな少女漫画のような想いを味わっていた。 それなのに今は何だろう……。 この人でいいかと妥協したり、本当に好きか?と付き合ってから悩む。 時に面倒臭くもなって、一緒にいても以前のようなときめきはない。 どちらかというと不安な日々。 景色は何1つ変わらないし、それどころかグレーに見えたりする。 そして、決まって別れた後の景色が何故か輝いていて綺麗だ。 例えるなら昔の恋愛はさっき食べたザッハトルテだ。 濃厚で甘いけど、所々ビターの苦みがきいて、それがやみつきになる。 だけど今の恋愛は食べたいから適当に買った板チョコだ。 食べ終わるまでは、始めと味が変わらない。 『パリッ、パリッ』と一口一口何かを刻んでは、繰り返す。 そして薄っぺらい…。 「…何考えてるの?」 黙々と頭の中で考えていると、最初に頼んだコーヒーを飲みながら綴は不思議そうにしている。 言えるわけもなくとっさに、何でもない。と答えた。 「……前よりちょっとわかりづらくなったね。」 綴はコーヒーを置き、私を見つめた。 「えっ?わかりづらい…?」 「うん。前はもっとわかりやすかったから。」 困る私を見て少し笑う綴。 綴は物凄く鋭い。 だからこそ一番私を理解してくれていて、受け止めてくれてたのかもしれない。 しかし、綴と私は必要以上には踏み込まない。 お互い歩み寄らない。 ……会うのも1年に数回。 私としてはもっと踏み込みたい。 だけど踏み切れない自分がいた。 心の何処かで何か閊える気持ちがあったからだ。 テラス席の窓が暗くなってきた。 そろそろ移動しようか。と綴は言って2人でカフェを後にして外に出た。     
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