3人が本棚に入れています
本棚に追加
昔は好きな人がくるだけでドキドキしたり、話しかけられただけで嬉しかった。
横顔に見惚れたり、良いことがあったその日は世界が薔薇色に輝いた。
嘘ではなく本当に『薔薇色』なのだ。
空は絵で描いたような空に見えるし、全てが煌めいていた。
辛いことがあっても、『○○くんに会うためにまた頑張ろう!』と生きる活力になった。
そんな少女漫画のような想いを味わっていた。
それなのに今は何だろう……。
この人でいいかと妥協したり、本当に好きか?と付き合ってから悩む。
時に面倒臭くもなって、一緒にいても以前のようなときめきはない。
どちらかというと不安な日々。
景色は何1つ変わらないし、それどころかグレーに見えたりする。
そして、決まって別れた後の景色が何故か輝いていて綺麗だ。
例えるなら昔の恋愛はさっき食べたザッハトルテだ。
濃厚で甘いけど、所々ビターの苦みがきいて、それがやみつきになる。
だけど今の恋愛は食べたいから適当に買った板チョコだ。
食べ終わるまでは、始めと味が変わらない。
『パリッ、パリッ』と一口一口何かを刻んでは、繰り返す。
そして薄っぺらい…。
「…何考えてるの?」
黙々と頭の中で考えていると、最初に頼んだコーヒーを飲みながら綴は不思議そうにしている。
言えるわけもなくとっさに、何でもない。と答えた。
「……前よりちょっとわかりづらくなったね。」
綴はコーヒーを置き、私を見つめた。
「えっ?わかりづらい…?」
「うん。前はもっとわかりやすかったから。」
困る私を見て少し笑う綴。
綴は物凄く鋭い。
だからこそ一番私を理解してくれていて、受け止めてくれてたのかもしれない。
しかし、綴と私は必要以上には踏み込まない。
お互い歩み寄らない。
……会うのも1年に数回。
私としてはもっと踏み込みたい。
だけど踏み切れない自分がいた。
心の何処かで何か閊える気持ちがあったからだ。
テラス席の窓が暗くなってきた。
そろそろ移動しようか。と綴は言って2人でカフェを後にして外に出た。
最初のコメントを投稿しよう!