月に吠える
全3/7エピソード・完結
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ここは雲の上。 人々が天国と呼ぶところ。 口をあんぐりと開けた男の隣で、女は澄ました顔をしている。 「彼って? 彼は犬じゃないか?」 「ええ、そうよ。犬よ。何か問題があるかしら?」 「いや、問題はない。ないけれども……」 「それなら」女はブロンドの髪を頬に押し付けながら、「ユキちゃんを生き返らせてあげられないかなぁ」と上目遣いで男を見た。 しかし、男は首を振った。 「キミも知っての通り、僕はルールを変えないよ。死んだモノは生き返らない。それが条理だ」 女は口を尖らせた。 「それは分かってるわ。でも輪廻転生は可能でしょ」 うむ、と男はひと時の間をあけた。 「なるほど。キミはあの家にもう一度ユキちゃんを生まれ変わらせたいというワケだね」 「その通り。出来る?」 「不可能……ではないけどね。色々と手続きがいる」 「アナタなら簡単でしょ。ねぇ」 女は甘えた声を出した。 細くて白い指で男の浅黒い腕をなぞる。 「おいおい、いくら僕が創造主だとしても、そう簡単にはいかないよ。それじゃあ、親なら子供に何をしても構わないという考えと一緒じゃないか」 「でも、出来るんでしょ」女は男の腕から指を離し、男の唇にそっと置いた。「何だったらアナタから受けたセクハラの数々、公表してもいいのよ」 女はにこやかに言った。 男はそれを目で飲み込むように、一度閉じて開く。 「僕がそんな脅しに屈するとでも思ったかい? それに人口はキチンと管理されているからね。年々減少させてるのに加え、人ひとりが産まれるためには人ひとりの死が必要なんだよ。知ってるだろ? 転生するにも順番待ちがあるんだ。だいたいユキちゃんはまだ死んだばかりとみえる。最低でも百年はこちらの世界で過ごさなきゃね」 「そこをなんとか、ねぇ」 女は両の手を合わせてみせた。 けれども男は両手を広げて「僕に裏口入学でもさせるつもりか」と言う。 何かと変な例えが鼻につく男。 女は呆れたように「もういいわ。アナタには頼まない。私のやり方でやるから」と、そっぽを向いた。 男は頭をぽりぽりと掻いあと、「ふーむ。ちょっと考えさせてくれ」腕組みのポーズをとった。
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