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「良ちゃん」
いつもの通り、アクセサリーを物色していた私の背後で姉の声がした。咄嗟に「怒られる」と心臓が跳ねた。
「それ。綺麗でしょう」
私の真横に立った姉は、私が手にしていたネックレスにゆっくりと手を伸ばした。
「もう、びっくりさせないでよ」
怒られなくて済んだという安堵は一転、驚かされたことへの反発に変わっていた。唇を突き出して文句を言った。
「良ちゃんが使いたいなら……半分、貸してあげる」
次の瞬間。姉の手に渡った一粒ダイヤのネックレスに、姉はゆっくりと鋏(はさみ)を入れた。姉の手には大きな裁ち鋏が握られていた。
続いて、引出しの中に鎮座していた本真珠のネックレス、それから、三連になったプラチナのネックレス。裁ち鋏の大きな刃は華奢なチェーンを次々と噛み潰す。
真珠の粒が硬い音をたてて散らばった。引出しが引きずりおろされて、中身を盛大に撒き散らす。まあるい真珠が転がって、私の足元で動きをとめた。
「……これで、半分こできる。ね?」
笑みを浮かべる姉の瞳は焦点があっていなかった。
恐ろしかった。
姉の暗い目玉はどこまでも私を追いかけてきて、自室の布団に潜り込んでも、瞼の裏側から私を見つめていた。
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