姉の独白

7/8

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 恋をしました。  幼かったあの頃に神城くんの横顔に抱いた憧憬がおとぎ話を読むように憧れた恋だとするならば、それは苦しさで焦げてしまうような紛れもない恋情でした。  彼と言葉を交わすとき、私の心は爪弾かれたハープの如く震えます。例えば彼が私に飲み物を渡す日時のいち場面。彼の視線はいつだって優しいのに、私はいつになってもどこか照れくさくて。けれど、ぎこちなく飲み物を受け取る私に、彼は優しく言葉をかけてくれます。  幸せでした。運命という言葉はきっと、私と彼のためにあったのです。私は彼が切り出してくれれば、すぐにでも結婚したいとさえ思っていました。  恥ずかしいことですが、彼の可愛らしい栗色の猫っ毛を見ては、私は未来の家族を思い描いていました。子どもは二人がいい。そしてやっぱり姉妹がいい。女の子だから、私と良子というよりは、きっと彼に似てしまうであろう私の赤ちゃん。柔らかな髪の毛に、カールはかかっているでしょうか。  彼のことをすぐにでも良子に紹介したいと思った時、一抹の不安が私の胸を過ぎりました。  私と良子はよく似ています。良子を見た彼と、彼を見た良子は、お互いに何を思うのでしょうか。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加