姉の独白

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 嵐は突然やってきました。  「春の嵐」は台風並みの暴風が吹きすさび、海岸では高波さえ見られます。その日も気温だけは暖かくも、窓ガラスには大きな雨粒が叩きつけられていました。長年使ったお気に入りの傘が風でひっくり返ってしまい、濡れ鼠のような姿で帰宅した私は、着替えを取るべく階段を登ったところでした。その時、私は自分の目を疑いました。  彼が、ゆっくりとドアを開けて、良子の部屋から出てきました。  彼は、まるで誰かに見つかったらまずいことでもあるかのように、辺りをキョロキョロと見渡していました。そして、私の姿を見つけると、ぎょっとしたように目を見開き、ぎこちなく笑みを浮かべました。あまつさえ言葉もなく足早に去ろうとさえしたのです。  高い金属音のような私の悲鳴が長く響きました。  気がつくと、私は肩で息をしていました。稲妻が瞬間、窓を突き破り、家の中を照らします。  はるか下の、階段の踊り場に彼の姿が見えました。あってはならない方向に足が折れ曲がっています。  私が彼を愛するのと同じように、良子が彼を愛するというのなら、誰彼構わず抱きしめたり、嘘をつくことのある上半身は良子にあげることにします。私は子どもを作るために、彼の下半身だけあればいい。  床に転がった彼を見て、良子はかつてのように「半分頂戴」と言うのでしょうか。そうであれば、私は喜んで差し出しましょう。  私たちは昔から仲の良い、似合いの姉妹なんですもの。
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