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そんな状態でスタート地点に立った直樹の元に、バトンを持った選手が近付いて来る。
翔太がバトンを受けて走り出した。
そして、すぐに、直樹もバトンを受けた。
「うわー ! 駄目だ ! ・・・」
走り出した直樹を見て、田上が天を仰いだ。
緊張のせいで、今まで上田が教えてきた事を全部忘れ、元の走り方になってしまっていた。
いや、それ以上だったかもしれない。
自分より少し遅い位の翔太との差は、スタートした時点で、わずか2、3mだったが、その差は、縮まるどころか、逆に、広がりつつあった。
やがて、直樹は、上田達がいるコーナーに差し掛かった。
居ても立ってもいられなくなった上田は、保護者達を掻き分け、保護者席の一番前に歩み出た。
「直樹 !!! もっと腕を振って !!!」
上田の声に、直樹は、ちらっと振り向いた。
「もっと脚を上げて !!! 蹴った足は、すぐ前に !!!」
その上田のアドバイスで、それまで最悪だった直樹の走り方が、徐々に良くなってきた。
直樹の視界に捕らえられた翔太の背中が、だんだんと近付いてくる。
もう少し・・・
あと少し・・・
そして、とうとう、コーナーの出口付近で翔太に並んだ。
よしっ !
直樹は、残る力を全て脚へと注ぎ込んだ・・・
すると、ふっと、翔太が、直樹の視界から消えた。
あれっ ?
翔太君、どこ行っちゃったんだろう・・・
えっ !? ・・・
ひょっとして ! ・・・
追い抜いたって事 !! ・・・
直樹は、やっと、自分が成し遂げた快挙を理解する事が出来た。
やったー !!!
初めて、人を追い抜いた !!!
直樹は、心の中でそう叫びながら、歓喜の余韻に浸っていた・・・
しかし、次の瞬間、直樹の横を、何事もなかったかのように、二人の選手が、平然と追い抜いて行った。
差し引き、マイナス1。
あんなに頑張って、やっと一人追い抜いたのに・・・、こんなにもあっさりと二人に・・・。
直樹は、人生の厳しさを痛感した。
上田と田上は、ガックリと肩を落とす。
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