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「ちょっと ! 見えないんだけど !」
後ろにいる保護者から注意され、上田は、やっと我に返った。
「あっ・・・すいません・・・」
上田は、頭を下げながら田上の所に戻った。
「残念でしたね・・・」
田上が、上田に言った。
「ああ・・・せめて、最初から、あの走りが出来てればな・・・」
クラス対抗リレーが終わった後も、上田と田上は、同じ場所で運動会を眺めていた。
「懐かしいですね、運動会」
田上が、上田に言った。
「ああ・・・」
「俺達の頃の運動会と、変わらないですよね・・・場所は違っても」
「そうだな・・・」
その時、
「おじさん !」
急に、背後から声を掛けられた。
二人が振り向くと、直樹が笑顔で立っていた。
「おう・・・直樹」
もっと落ち込んでいるかと思っていたが、意外と元気そうな直樹の笑顔を見て、上田は安心した。
「見ててくれた !? ・・・僕が、他の子を追い抜く所」
「ああ。ちゃんと見てたよ・・・良かったな !」
「うん ! ・・・でも・・・ごめんね・・・その後、すぐ二人に抜かれちゃって・・・」
さっきまでの笑顔は消え、直樹は、下を向いた。
「まあ、練習を始めて、一週間も経ってないからな・・・」
「せっかく、おじさん達に教えてもらったのに・・・」
「気にするなって、そんな事・・・良く頑張ったよ、直樹は」
上田は、直樹の肩を抱きながら慰めた。
「・・・全然、怒ってない ?」
「怒る訳ないだろ」
「本当 ?」
「ああ・・・その代わり・・・」
「その代わり ? ・・・」
「これからも、練習続けろよ・・・そうしたら、もっと速くなるから」
「・・・うん !」
直樹は、上田を見上げ、笑顔で頷いた。
その時、
「綱引きに出場する選手は、入場門に集まってください !」
というアナウンスが聞こえてきた。
「あっ・・・僕、出なきゃいけないから、行くね」
「ああ」
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