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そんな場所で、直樹はストップウォッチを手に、公園の端から端まで、全力で何回も走っていた。
そして、その光景を、公園の外にある街路樹の陰から見守る二人の男がいた。
ピッ。
「ハア、ハア、ハア・・・」
走り終えた直樹は、ストップウォッチを確認する。
「駄目か・・・全然伸びてないな・・・」
「もっと、腕をしっかり振った方がいいな」
「えっ !?」
直樹は、背後から突然話し掛けられドキッとした。
振り返ってみると、そこにいたのは、三十代と二十代くらいの見知らぬ二人の男だった。
「こういう風に」
と言いながら、三十代の男が、腕の振り方を実演してみせた。
「えっ ? ・・・こう ?」
直樹は、若干の不信感を抱きながらも、男の腕の振り方を真似してみた。
「そうそう・・・それで走ってみて。タイムは、俺達が計ってあげるから」
三十代の男は、直樹から受け取ったストップウォッチを二十代の男に渡す。
直樹は、言われるままにスタート地点に向かい、三十代の男の合図と共に走り出した。
そして、腕の振り方を意識しながら、ゴールまで走りきった。
「ハア、ハア、ハア・・・」
直樹が、呼吸を整えながら男達に近付いていくと、
「8秒16」
二十代の男が、ストップウォッチを見せながら言った。
「やった ! 記録が伸びた !」
直樹は、小さくガッツポーズをした。
と同時に、シャーペンで心に刻まれていた不信感を消しゴムで消し、消せるボールペンで、新たに信頼感と書き込んでいた。
「あと、地面を蹴った後の足を上げ過ぎだから、地面を蹴ったら、すぐ前に出すようにした方がいいな」
直樹は、三十代の男の指示通り、少し走って見せた。
「こう ?」
「そうそう。飲み込みが早いな・・・それで、もう一回走ってみようか」
「うん !」
直樹は、小走りでスタート地点に走って行った。
そして、スタートの合図と共にゴールまで走りきった。
「何秒 ?」
「7秒86 !」
「やった !! 8秒切った !!」
直樹は、満面の笑みで、ガッツポーズをしながらジャンプを繰り返した。
この瞬間、直樹の心の中では、今度は、簡単には消す事の出来ない油性マジックで、信頼感と上書きされていた。
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