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「凄いな ! ボルトより速いぞ !」
三十代の男が直樹を褒めた。
「そりゃそうでしょ。どう見たって50mもないんだから」
二十代の男が、冷静に言った。
「マラソンの世界記録が2時間ちょっとだろ・・・それと比べたら、もう、比べもんにならない位速いぞ !」
「だから、距離が全然違うでしょ」
「走り高跳びの世界記録が2m40位だっけ ? ・・・それと比べたらなあ・・・もう・・・とにかく凄いぞ !」
「単位が全然違うし・・・比べないでくださいよ。そんなもんと」
「本当 !? ・・・じゃあ、金メダルも夢じゃないって事 !?」
「ほら、その気になっちゃってるじゃないですか」
「ああ、もっともっと頑張ればな」
「じゃあ、他には、どうすればいいの !?」
目を輝かせながら、直樹が聞いた。
「その前に、ちょっと休憩しようか・・・疲れただろ」
ベンチに座っている三十代の男と直樹の元に、二十代の男が、三本のペットボトルを手に帰って来た。
そして、二人にペットボトルを渡しながら、三十代の男の隣に座った。
「ありがとう」
直樹は、受け取ったペットボトルを開けると、一気に、半分ほど飲み干した。
「おじさんて、陸上やってたの ?」
一息ついた直樹が、三十代の男に聞いた。
「まあな・・・」
三十代の男は、曖昧に頷いた。
「凄い選手だったんだぞ ! 色んな大会で優勝して・・・スローナじゃ、知らない人はいない位だからな」
二十代の男が、代わりに自慢した。
「スローナ ?」
「あっ ! ・・・」
二十代の男が、自分の犯した過ちに気付いた。
三十代の男は、直樹に気付かれないように、二十代の男を睨んだ。
「スローナって、どこ ? ・・・外国 ?」
「ああ・・・えーっと・・・アフリカの西の方にあるんだ」
三十代の男が、なんとか取り繕った。
「日本人にしか見えないけど・・・」
「・・・父親の仕事の都合で、中学生くらいから住むようになったんだ・・・」
「へー・・・初めて聞いたな、スローナなんて・・・どんな国 ?」
「どんな国って言われてもなあ・・・」
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