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「始まりますよ ! 直樹の出るリレー」
田上が、上田に言った。
「そうだな」
「そうだな、じゃなくて・・・もっと、近くで見ましょうよ」
「えっ !? ・・・大丈夫か ?」
「大丈夫ですよ。特に変わった様子も無いですし・・・早く早く」
上田は、田上に急かされ、正門にある受け付けに向かった。
上田と田上は、保護者席の後ろに辿り着いた。
そして、それを待っていたかのように、タイミング良く、直樹達が入場して来た。
「遠くて、良く見えないな」
上田が、ぽつりと言った。
「さっきまで、電柱の陰で見てた人の言うセリフですかね」
保護者席は一杯で、これ以上、前に行く事は出来ない。
間もなく、リレーが始まった。
直樹は、一番右の列の真ん中くらいに座っていて、リレーが進むにつれて、前の方に移動して行く。
ふと左を向くと、右から四番目の列に、翔太が座っていた。
翔太とは去年同じクラスで、やはり脚が遅く、直樹よりも少し遅い位だった。
翔太が、前を走ってくれるような展開になればいいな・・・
そうすれば、初めて、人を追い抜けるかもしれない。
そんな事を考えながら、直樹は、リレーの成り行きを見ていた。
すると、リレーが進むにつれ、どんどんと、直樹の希望通りの展開に近付いていった。
と同時に、直樹の精神状態にも変化が生じてきた。
その変化は、翔太の4組が1位、直樹の1組が2位になり、いよいよ自分の順番という場面になった所でマックスになった。
「なんか、様子が変ですね」
立ち上がって、スタート地点に向かおうとしている直樹を見て、田上が上田に言った。
「ああ・・・」
直樹は、右腕と右脚を同時に出しながら歩き、何も無い所でつまづいていた。
もし、これがゼスチャーゲームなら、百人が百人、「緊張」と答えただろう。
初めて、人を追い抜けるかもしれない。
しかも、追い抜けば1位になれる。
そういう展開になった事が、直樹の緊張をマックスにまで押し上げていた。
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