第1章

7/52
前へ
/187ページ
次へ
いきなり耳に入ってきた不機嫌そうな声に思わず肩をすくめた。 おそるおそる目の前の長い足を目線で辿ると、入学式にも関わらず赤いメッシュの入った男がこちらを睨んでいた。 ………のではなく。 「そこ俺らの席。自分の席あんだろ」 男が睨んでいたのは女子たちの方だった。 女子たちはいきなりの会話の侵入者に一斉に黙りこくった。 そして何人かがヒソヒソと何やら話しはじめ、やがてそれぞれの席へと散っていった。 ちょうど間に挟まる形でいた俺からしたらビクビクものだ。 1人でホッと胸を撫で下ろしていると、ポンと肩に手が置かれた。 「おい、あんた」 「へっ!?」 「へっ?じゃねーよ。そこ、俺の席だっつの。あんた名前は?」 「え…いや……み、三谷だけど」 「へー。じゃあ俺の隣じゃねーの」 ポカンとしていると、今度は眉にシワを寄せてしっしと俺を手で追い払った。 なんかヤなヤツ。 正直な感想だった。 俺の名前を聞いてきたくせに自分は不機嫌そうな顔で自分の方はといえば名乗りゃあしない。 ぜったいこいつ、人から嫌われるタイプだろ… でも…。 「何?」 「えっ…あ、なんでもない…」 「じゃあこっち見んな」 かっこいい。 男の目から見て正直にかっこいいと思ってしまった。 黒髪に赤いメッシュをしているから怖い印象を受けるけど、 切れ長の目はずっとまっすぐにモノを見てるし背だってダントツに高いし、スーツの下の筋肉がしっかり存在を強調している。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

450人が本棚に入れています
本棚に追加