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宵闇ゴースト
「すっかり私のものになってしまったな」
どさりとスーパーの買い物袋が落ちる。落としたのは僕だ。玄関に立ち尽くし、ともすれば呼吸すら、しばらく忘れていたと思う。
「彼女ときたら、いくら懇切丁寧に説明しても、まるで興味を持ちやしないんだから」
叔父さんが月明かりを受けて立っていた。向こう側の壁と窓が、うっすら透けて見えるのはどういう事だ。
目を擦っても、瞬きをしても、嬉しそうに望遠鏡をいじくる叔父さんが消える事は無かった。
「あの、これって、何がどうなって」
「まあいいさ。来月は清太郎が来てくれる。今度は何を見せてやろうか」
脳みその奥から、思考を空っぽにする何かが溢れ出している。もやもやとしたそれに侵食されて、考えがまとまらない。
おかしな話だけれど、望遠鏡を中心にきびきびと手を動かす叔父さんは、元気そうだ。
自然と口の端が持ち上がる。幽霊でも悪いものでも何でも良い。もう一度話せるのなら、それで。
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