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「その望遠鏡、叔母さんが僕にって。ごめんね、勝手に持ってきちゃって」
「これでよし、と……どれどれ」
叔父さんが望遠鏡を覗き込む。
こちらの声など、聞こえていない素振りである。そもそも、そこにいるというよりは、動画を見ている感覚に近い。
独り言が多いのは昔からであるから、きっと一人で望遠鏡をいじくっている時にも、あれやこれやと呟いていたに違いない。
望遠鏡に染み付いた、叔父さんの人生の欠片でも見ているのか。それとも、疲れのせいで、いよいよどうにかなってしまったのか。
「何が見えるの?」
やはり答えは無かったけれど、それでも良い。
「ごめんね本当に、連休にも寄れたら良かったんだけど。そうしたら、もう一度会えたのに」
――忙しくて、時間が作れなくてさ。
最後のところは、口の外に出ていってはくれなかった。
こんな言い訳をしてどうなる。自分の中で渦を巻く後悔の念を、少しでも軽くしたいだけではないか。それきり、口をつぐんだ僕は、夕食を取る事も忘れて、叔父さんの独り言を眺めていた。
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