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「清太郎の言う通り、随分と寂しい想いをさせてしまった」
唐突にカチリと合った歯車に、戸惑いを隠せない。
叔父さんは、窓の外に視線を戻してこう続けた。
「でもね、私も彼女も、誰よりも幸せだったって、胸を張って言えるよ」
「……どうして?」
幸せだったと言われて、どうして、と聞くのも失礼な話だ。慌てて口を押さえるが、叔父さんはむっとするそぶりもなく、嬉しそうな声を出す。
「そりゃあそうさ、お互いに愛しあっていたからね」
大きな背中は誇らしげに見えた。
「なんて、大事なところは独り言ばかりでどうにも締まらないね。私もまだまだだ」
聞こえているのか、いないのか。繋がっているのか、やはり違うのか。途端に曖昧になった空気に、視界がぼやける。
やはり幻覚でも見ているのだろうか……のしかかってきた不安を、力強い声がはらう。
「さて、間に合うと良いけど。明日の夜、彼女を迎えに行くつもりだ。良かったら昼間の内に会ってやってくれないか」
「迎えにって? 待ってよ、そんな」
「心配は要らないよ。それじゃあお別れだ」
「待ってってば、話したい事が本当に沢山あるんだ」
「頑張れ清太郎」
見てくれている人は、必ずいるから。
首をゆるく振った叔父さんは、振り返ってはくれなかったが、僕にはその一言で十分だった。
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