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夜が深け、欠けた月が空に輝く頃。
王宮のテラスにその人物はいた。
艶やかな金髪を夜風になびかせながら、王国の若き主・ウィルソンは物思いにふける。
彼が想いをはせるのは、多くの場合が一人の“魔法使い”についてだ。
“魔法使い”をウィルソンが初めて目にしたのはもう10年は前になる。
攻め入ってきた他国との戦の中でだった。それが初陣だったらしい“魔法使い”の圧倒的な魔法に感嘆し、そして“魔法使い”が愛する者にむけるその視線に恋をした。
初めから自分のものではなく、そして王となった今も、“魔法使い”の心は手に入らず、それどころかなお遠く離れていく。
世間では賢王と名高きウィルソンだが、ただこうして夜な夜な想いをはせることしかできずにいる。
そこにあり、輝きながらも手からは遠く、届かない。
月のような“魔法使い”。
ウィルソンは、手に入らないならばせめて傍にと無理もした。
その結果“魔法使い”を苦しめていることも自覚している。
ただ“魔法使い”だけを望んで国の主となった男は、願い叶わず今日もまた、《無欲な賢王》として王座に座り続ける。
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