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翌朝、もうほとんど人のいない時間の魔法師団の寮に、一匹の犬の可愛さの欠片もないモーニングコールが響いた。
「起きてくださいせ~んぱ~い~!」
ギノアがそう叫んでいるのはクロノの部屋の中……ではなく、その外。
昨日は成り行きで入れたものの、クロノには正式に入室の許可は得ていない。鍵はかかっていなかったが、許可した者以外は入れないように魔法がかけられていたのだ。
つまり、許可を得ていないギノアは勝手に部屋に入ってクロノの寝顔を拝むことも、起こすついでに朝食を作って一緒に食べることもできない。
そう判断し、ギノアは妄想も程々に部屋の外から出勤時間を過ぎても出てこないクロノを起こすべく、こうして奮闘しているのだった。
十五分ほど粘ると、部屋の中から不機嫌そうなクロノが、いつものシャツにズボンという格好で出てきた。
「うるさいっつの。そんなとこで大声だしてないでさっさと中入ればよかっただろーが」
面倒くさそうにそう言ったクロノに固まるギノア。
しばらくすると、じわじわと来た嬉しさに満面の笑みを浮かべてクロノに抱きついた。
「うわ~っ!先輩ありがとうっ!大好きっ!」
「ばっ、いきなり何だよ!?離れろ、重いっての!」
「むふふ~、許可してくれたんすね~、へへへっ」
「きもい」
何だかんだ言っても無理に引き剥がそうとはしないクロノに、ギノアは幸せがとまらない。
結局いい加減にしろ、と拳骨を食らうまでギノアはクロノに抱きつき続けたのだった。
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