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後始末やらがあるというルーエンと別れ、二人は魔法師団詰所へと戻ることにした。
すっかり喧騒は途切れ、所々に争った跡がある以外、辺りは何事もなかったかのようだ。
少しの気恥かしさを抱え、互いに無言のままゆっくりと歩いて行く。
前をクロノが、その数歩後を追う様にギノアが。以前と変わらないその位置関係が、クロノには不思議と心地よかった。
「今ごろ団長は大忙しでしょうね。お手伝いしないとですかね?」
「ほっとけばいいんだよ。俺らにできることなんかどうせ無いんだしな」
「はは、確かにそうっすね。お茶でも淹れましょうか」
「ん。そうだな」
そうしてぽつぽつと、たわいない話をして進む。
ゆっくりとした温かい時間。
胸の中が満たされるような感覚がむずがゆくてクロノはそっと自分の胸元をおさえる。
いつか、遠い過去に感じていたものとは違った“幸福”。
あの頃には考えもしていなかった今、現在。
もしかしたら、とクロノはギノアを振り返って考える。
もしかしたら――
「どうかしました?」
「……いや、なんでもない」
ふいに浮かんだ思いを振り払うように、クロノは再び歩み始めた。
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