三章 一歩

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ウィルソンは民の思うような完璧な人間ではない。 ただの人間らしく思い悩む事も、失敗を犯すこともある。 だが、愚かと思うほどに優しい人間だ。 今こうして、自分の望みと相手の気持ちを天秤にかけて悩めることがいい例だろう。 リリスはこの、王らしくなく、けれどこの上なく理想の王たる自分の主に、もはや溜息しか出ない。 明らかに革命後から老けた気がする。 そんな事を思いながら、リリスはどうにか無難な道を探し当てた。 「さっと行ってさっと帰ってこれば大丈夫ですよ。 彼はほとんど詰所にいないそうですから、団長のアイジスにでも彼の近況を聞いて満足なさってはいかがですかね?あ、もちろん本題はスパイ捕縛の報告を聞くということで」 「そうか…確かに前回行ったときも会わなかったしな。姿を見れないのは残念だが仕方がない…しかし、あいつのことを聞いても、その…怪しまれないだろうか?」 「いや、怪しむも何も、彼への好意なら駄々漏れですが?きっとアイジスも気づいているかと」 「…俺はそこまでわかりやすいのか?」 「いえ、彼のことに限ってですかね」 「…想いが強すぎたか」 「ふつーにキモイんでそこ受け入れないでくれます?」 一段と冷徹極まるリリスのツッコミはウィルソンの耳には届かなかった。 計画も立ったところで、よし、と気合を入れなおし、ペンを握って書類にとりかかるウィルソン。 「いや、あのだから、書類が破けそうなんで力込めてサインしないで下さいよ」
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