三章 一歩

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「…変わりありませんよ。相変わらず仕事はサボってばかりです。でも、そうですね…あいつに教育を任せた新人の影響か、嫌々ながらもするようにはなってきていますね」 「そうか…上手くやれているならいい。先日怪我をしたと聞いたが、大丈夫そうか?」 「陛下もご存知でしょうが、副団長のレイルは治癒魔法にかけては最高峰といえる腕前です。痕も残っていないですから、ご心配なく」 そう聞くと、ウィルソンは安心したように肩の力を抜いた。 ただ…とアイジスはウィルソンに言う。 「あの“忠義の徒”の男は元あった魔法師団の団員で、あいつのことも知っていたそうです。これは本人が言っていた話ではありませんが、おそらく勧誘にあったのかと」 「勧誘…そうだな。あいつほど“忠義の徒”にふさわしい者はいないのかもしれないな。 やはりまだ、俺を許してはくれないのだろうか…」 自嘲気味に苦笑しながら、否定など求めていない問いを投げかけるウィルソンに、それでも否とアイジスは首を横に振った。 「そのまま“忠義の徒”に参加することもできたはずです。けれどそうしなかったのは…」 「多少は、期待しても良いのだろうか?」 「どうでしょう。けれどあいつも、昔のままでいるわけではないと思いますよ」 そうであって欲しい、というのが本心ではあった。 アイジスから見て、確かにギノア達と共にいる間の彼は今を生きている。 けれど、特にウィルソンの話がでたときなどの彼は… どちらが本当の彼なのか、あるいはどちらも彼であるのか。 人の心はわからないものだと、アイジスは出かかった嘆息を飲み込んだ。
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