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「…変わりありませんよ。相変わらず仕事はサボってばかりです。でも、そうですね…あいつに教育を任せた新人の影響か、嫌々ながらもするようにはなってきていますね」
「そうか…上手くやれているならいい。先日怪我をしたと聞いたが、大丈夫そうか?」
「陛下もご存知でしょうが、副団長のレイルは治癒魔法にかけては最高峰といえる腕前です。痕も残っていないですから、ご心配なく」
そう聞くと、ウィルソンは安心したように肩の力を抜いた。
ただ…とアイジスはウィルソンに言う。
「あの“忠義の徒”の男は元あった魔法師団の団員で、あいつのことも知っていたそうです。これは本人が言っていた話ではありませんが、おそらく勧誘にあったのかと」
「勧誘…そうだな。あいつほど“忠義の徒”にふさわしい者はいないのかもしれないな。
やはりまだ、俺を許してはくれないのだろうか…」
自嘲気味に苦笑しながら、否定など求めていない問いを投げかけるウィルソンに、それでも否とアイジスは首を横に振った。
「そのまま“忠義の徒”に参加することもできたはずです。けれどそうしなかったのは…」
「多少は、期待しても良いのだろうか?」
「どうでしょう。けれどあいつも、昔のままでいるわけではないと思いますよ」
そうであって欲しい、というのが本心ではあった。
アイジスから見て、確かにギノア達と共にいる間の彼は今を生きている。
けれど、特にウィルソンの話がでたときなどの彼は…
どちらが本当の彼なのか、あるいはどちらも彼であるのか。
人の心はわからないものだと、アイジスは出かかった嘆息を飲み込んだ。
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