三章 一歩

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「…あぁ、もう謁見の時刻が迫ってる。今日はもう帰ろう」 「ご足労いただき、ありがとうございました。外までお送りします」 「頼む。あと、話した内容は伏せておいてもらえるか?」 「わかっておりますよ」 恥ずかしいのか何なのか。 それなりに必死そうな主君の姿にアイジスは微笑んだ。  廊下を歩きながら二人は聞かれても問題なさそうな、他愛無い話をした。 その中で騎士団との溝についても話題があがる。 「正直レイルが外の近衛騎士殿と鉢合わせないかハラハラしていましたよ。今日一番の騒動を起こしそうで…」 「あぁ、レイルは騎士嫌いだったな。だとすると騎士あがりの俺も嫌われているだろうか?」 「いえ、陛下は別ですよ。レイルは容赦はありませんが、自身の敵としっかりとした信念を持たない者だけです。人を見る目はあるんですよ」 「そうか。だとすると騎士団のほうをどうにかせねばならないようだな」 公正公平の賢王は、自身の身内ばかりの騎士団相手でも変わらないようだ。 安心したような、騎士団への同情のような思いがアイジスの中で沸き起こる。 …ウィルソンが騎士団長を務めていた頃の騎士団は、それはそれは規律正しく厳しかったらしい。  そんな事を話していると、入口の両サイドを固めている近衛騎士が目に入る。 アイジスは、これでは入りにくい団員も多そうだなと苦笑した。 「あ、団長!」 出てすぐ、アイジスの耳に研究所へやっていたギノアの声が届く。 お前も入りにくいだろう、と言おうとして声の方を向いたアイジスの瞳に、同じ研究所にやっていたことをすっかり忘れていたクロノの姿が映る。 「どうした?アイジス」 すぐ後に出てきたウィルソンの声を聞いて、アイジスは額を押さえた。 運が悪いことに、懸念していた“厄介な事”が起こりそうだ。
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