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二人が着いたのは王宮のはずれにある魔法師団の詰め所。魔法師団の活動の拠点である。
「失礼しますよー」
「あ、ちょっ、先輩っ!」
ノックもせずにクロノが開けたドアには“団長執務室”の文字。
中で大量の書類の山に埋もれていた、長い赤髪を一つにまとめた男が、魔道師団と王国にいる全ての魔法使いの頂点に立つ魔道師団団長・アイジスである。
「やっと来たか、クロノ。随分良いご身分だな、おい。……ご苦労だった、ギノア。さがれ」
「は、はいっ!」
切れ長の目を野獣の様にぎらつかせながら顔を上げたアイジスの顔は、随分とやつれ、目の下は隈がひどい。
せっかくの美丈夫が台無しであるが、アイジスに関しては仕事が忙しすぎてこれが通常の顔になりつつある。
周りはそのうち倒れないかとどれだけ長い間思い続けたかわからない。
結局なんだかんだぴんぴんしているから心配するだけ無駄のようだ。
「悪いがこの通り忙しい。話しはこのままさせてもらうぞ」
「別に構いませんよ」
どうせまたアイジスのお小言が始まるのだろうとクロノは肩をすくめた。
義理堅く真面目で曲がったことを嫌うアイジスは、事あるごとにクロノに説教をしている。
だがクロノはいくら説教しようとまったく正す気配がないのだから、普通の者ならお手上げだ。
そこで諦めないところにアイジスの性格があらわれているが。
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