三章 一歩

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「…ク、ロノ」 会わないようにと気をつけて、それでも本心では会いたくてたまらなかった想い人。 顔を見れただけでたまらなく嬉しくて、愛しさがこみ上げてくる。 思わず呼んでしまった名に光の消えてゆく姿をみて、ウィルソンは酷く後悔した。 口元を押さえ、一刻も早くこの場を去らなければと焦る気持ちに反して、彼の足は重く動いてくれない。 「陛下…」 アイジスが気遣うように声をかけるも、ウィルソンの意識はただ一人から動かず、声は届いているのかもわからなかった。 「いつから」 どこか緊迫していた空気の中、その声は微かに、けれど確かに響いた。 口を開いた本人は恐ろしいほど無表情にウィルソンを見ている。 視線の集まる先、落ち着き払って見えるクロノに、ギノアは以前見た彼の姿を思い返した。 虚ろで不安定、どこか消えてしまいそうなその姿は、目の前のクロノと被って見える。 けれど確かに違うのは、今のクロノからは何の感情も読み取れないこと。 押し殺しているとはまったく違う、どこまでも凪いだ夜の海のようなその姿からは、ただ闇しか感じない。 ギノアは恐怖した。 それが何に対する恐怖かはわからなかったが、「引き止めなければ」と強く思って。
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