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「じゃあ失礼します!」
そう言ってギノアはぐいぐいとクロノの腕を引っ張って詰所の中へと進んで行く。
二人の姿が完全に消えたところで、ウィルソンは呆気にとられているアイジスに聞いた。
「なぁ、あの青年はなんというんだ?今まで見たことがなかったが」
「ギノアのことですか?先ほどお話した、クロノに任せている新人ですよ」
「…そうか」
ウィルソンはアイジスの報告を思い返した。
サボり気味だった仕事をするようになったのは、ギノアの影響だと言っていた。
そして今の、ギノアの行動で自身の前でも自然な姿へと戻ったクロノ。
どうやらクロノはギノアに確かに変えられているようだ。
素直にそれを喜べないのは、ギノアのクロノへの視線に自身と同じものを感じてしまったからだろうか。
たまらず、ウィルソンは口元を隠した。
「まったく、笑えんな」
そう言いながらも細められた瞳は何を思っているのだろうか。
アイジスはそんな王の姿に苦笑する。
つくづく面倒な御人だ。
あれだけ嫌われているのをつきつけられ、さらには恋敵まで現れて。
きっぱりと諦めてくれた方が気苦労も少なくて済むというのに、めげる気配は微塵もない。
まだまだ続きそうな厄介な状況に、アイジスは深い深い溜息を吐くのだった。
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