三章 一歩

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…  王宮・サロンの一室 「本気ですか?」 怪訝な表情を浮かべたリリスは、権力と権威を示すように置かれた煌びやかな美術品には目もくれず、月の輝く空を眺める主に問うた。 「もちろんだ。実に面白い提案だと思わないか?」 真実面白そうに見えるその顔にリリスの眉間に皺がよる。 「それであなたの機嫌が悪くなって政務に支障が出る可能性は?」 「なくはないな」 「ふざけないでもらえますかね」 「事実だ。未来のことなど確約は出来んからな」 悪びれる様子も無い態度はますます上昇気味の怒りに火をつける。 ある程度我慢を知るリリスも、さすがに限界だった。 「昔っからあんたのその態度が苛つくんです!全部のしわ寄せがこっちに来るの理解してます!?私情に振り舞わされるのは御免ですからね!」 近衛騎士がすぐ外で待機しているのもお構いなしに大声で不敬罪にも問われかねないことを口走ったリリスに、言われた本人であるウィルソンが目をむいた。 「わ、悪い!謝るから一回落ち着け!」 「はぁ!?誰のせいだと思ってるんです!?」 「俺のせいだ、悪い!」 「ちゃんとわかってるんですか!? あー、もういいです!今日は下がらせてもらいますから!」 「リリス!」 盛大な足音を立てながらサロンを飛び出していったリリスに、ウィルソンは呆然と立ち尽くす。 今までも口喧嘩はあったがここまでリリスが怒りを爆発させるのは珍しいことだ。 日々リリスが自分の相手でストレスを溜め込んでいることをいまいち理解していないウィルソンは「何かあったのか?」と他に原因を求めて首をかしげる。 …一方外にいた近衛騎士達は、ただひたすらリリスに同情し苦笑していた。
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