三章 一歩

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 翌日、起きてすぐにクロノは違和感を覚えた。 実に爽やかな目覚めだったのだ。 なんの問題も無い良い一日を過ごせそうな、最高の目覚め。 つまり“邪魔がなく静か”なのだ。 それが普通かもしれない。 だが、ここ最近のクロノにしてみれば異常なことだった。 「……ギノアが来ない」 壁にかけられた時計はもう出勤時間ぎりぎりをさしている。 普段ならばギノアが焦りに焦って泣き叫びながらクロノを急かしている時間だ。 「あいつ寝坊したのか?」 自分のことを棚にあげてクロノは思った。 とりあえず遅刻決定だと開き直っていつも通りに朝の支度を始める。 後でギノアを起こしに行ってやろうか…と考えて、クロノは自分がギノアの部屋を知らないことを思い出した。 今の時間帯に寮に残っている人物などクロノくらいで、誰かに聞くことも出来ない。 「しょうがないか」 即座にクロノはギノアを置いていく判断を下した。 たまにはギノアがしっかりしていない姿を拝んでみたくなった、というのはクロノだけの秘密だ。
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