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しかし、それにも彼女は微動だにしなかった。閉ざされた視界の中で、男達の刃がすぐそこまで迫っていることはわかっていた。空気を切り裂く、獰猛な刃は躊躇うことなく彼女に噛みつこうとしている。
相当の訓練を積んだのだろう。彼女は闇の中を駆ける、もう一つの気配が彼らのすぐ傍まで近づいていることを感じつつ、彼らのこれまでの労苦を思った。ここまでの技量と冷酷さを己が身に染み込ませるのに、どれだけの時間と労力が要っただろう。
「があ……!」
肉を断つ、不気味な音と共に、苦悶の声が次々に上がる。しばらくすると、少女の足元にはいくつもの死体が転がっていた。
「よう……。迎撃部隊はこれだけか?」
「そのようです、ソリトゥス」
少女の傍に一人の男が立っていた。声の調子から、中年手前だろう。ソリトゥスと呼ばれた男は、少女を砂から引き抜くと、軽々と抱きかかえた。
「お、降ろしなさい、ソリトゥス」
「うるせえよ。……また痩せたか? アスピダ」
暴れるアスピダを他所に、ソリトゥスは歩き出す。荒地を歩くのは慣れっこのようで、アスピダを抱えているが足を取られることはなさそうだった。
「……また誰かが襲ってくるかもしれません。降ろしなさい」
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