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おやすみなさいの前に……
蒼ノ下雷太郎
OP
真夜中。
少年はまだ夢の中におらず、部屋の窓から夜空を眺めていた。満点の星空、一つ一つの煌きは遥か先に漂う残響のようなものなのに、綺麗だ。少年は両手を合わせる。
祈り。
彼は、星に願いを託した。
「……先生を殺してください」
001
年端もいかない少年。まだ、小学二年生の子供だ。
何故、彼は星に願いを託したのか。
何故。
彼は、どういう理由で、そんな願いを持つようになったのか。
始まりから遡ってみよう。
そもそも、人が殺意を抱くのは不思議なことではないが、でも彼は普段から殺意をポップコーンを食べるように気軽に抱く子じゃない。
最初、あの教師を優しそうだなと勘違いした。
「初めまして。皆さん、この学年からよろしくね。担任の池川です」
仮に、彼女をiとしとこう。
iは、温和そうな笑みがとても似合う中年女性であった。ふくよかな体に、髪は天然パーマで、縁の大きなメガネをかけている。子供だけじゃなく大人も同じ感想を抱く人である。
事実、彼女の授業は全ての生徒に開かれた公平なものであった。どの生徒にも厳しく、それでいて優しく、をバランス良くこなし、教師の鑑と教頭からも感心されるほどだ。
しかし、ある授業でそれは変わる。
「先生、こいつふざけてます」
仮に、少年をAとしようか。この話の主人公。
Aは、冒頭で星に願いを託した少年である。そして、こいつふざけてます、と言われた少年である。言った少年ではない。
言われた少年だ。
「あら、何でなのAくん? どうして、こんなこと書いたのかしら」
Aくんはキョトンとした。
彼は意味が分からなかった。
「いみが、わかりません」
だから、彼はそのまま返した。
「あのね。Aくん、意味が分かりませんって、そんな先生にいじわるしないで」と言われても困った。本当に、Aくんは意味が分からなかったのだから。
それは、国語の授業のプリントだった。
この話の登場人物に手紙を書きましょう、というもの。それに対し、Aくんは気さくに話しかけるように手紙を書いたのだ。あのときは、きみは調子に乗ってたぜ、とか。でも、良いとこもあるよな、とか。
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