1人が本棚に入れています
本棚に追加
ときおり、二ヒヒ、と笑う男子達がAくんの背中にセロテープで【ごうだつはん】と書かれた紙を貼ったり、それも注意しませんし、いえ、貼った者達もバレそうになるとすぐはがすからなんですけど。
「………」
このとき、Aくんは何となくですが、背中に何か貼られてるなという感覚がありました。でも、反抗しません。
(ふりむいたって、はろうとしてないよー、で終わりだもんね……)
そして、スパイゲームでも楽しむかのように、自分に気付かれず紙を貼るのを楽しむのだ。
Aくんは、辛いとは思いませんでした。
(でも、ぼくが悪いんだもんな……)
ぼくは、悪い子だから。
辛いとは、思っていませんでした。自覚してないのです。
だって、この苦しみは悪い子の僕がいけないんだから、と。
004
Aくんは誰かに相談することもできませんでした。クラスに友達はいないし、相談するはずの教師が悩みごとの原因だし、と。
親にも話せません。
先生から悪い子と言われてる。それも、女の子をいじめるような最低な奴と言われてる、と。そんなこと言えるわけありません。
正確には先生はそこまで言ってないのですが、いつのまにかクラスメイトが言ってることが混ざり、i先生に集約されてるようです。
Aくんが唯一、心を落ち着かせられるのは愛犬のライカでした。
小さな芝犬で、毛は茶色。散歩に連れ出すと、しっぽを振って舌を出し、うれしそうにてくてく歩く。
「それでさ。ぼくはがんばってるつもりなんだけどさ。先生がね」
彼にとって、ライカだけが悩みを相談できる相手でした。
この物語は彼をどん底に落とすだけが目的の物語ではないため、このライカが死ぬという展開はありません。むしろ、彼の前に理解者が現れます。
「あっ」
「……あ」
それは、Bさんでした。
給食のとき、Aくんの真向かいの席だった女の子――というか、Aくんの隣の席にいる女の子です。
彼に牛乳をあげた女の子。今は、彼と席を大分離れさせて距離を取る子。
「………」
ふと、Aくんは何か妙なものが芽生えましたが、それを抑え込み、さっさと行こうとしました。
「ごめんなさい」
でも、袖を引っ張るようにBさんの言葉が放たれます。
「……え?」
「わたしのせいで。Aくん、みんなにきらわれて」
005
どうやら、bさんは内心罪悪感を抱いていたそうです。
最初のコメントを投稿しよう!