十一 奇妙な強盗

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「ありがとうございます。これで女房も安心して眠れるってもんだ。それで、報酬なんですが……」 「気を使わずともよい。いつも世話になっているのだ」 「いいんですかい?」  マーシャが桜蓮荘に移り住んだ際、先祖伝来の家屋敷や品物のほとんどを金に変えており、その蓄えはまだかなりある。現役時代に得た莫大な賞金も、ほぼ手付かずのままだ。また、大家としてささやかながら定期的な家賃収入があるため、金にはまったく困っていない。 「でも、そうだな――用心棒をする間、毎晩何杯か酒をおごってくれると嬉しいが」 「そのくらい、お安い御用でさ」  こうして、マーシャは下手人が逮捕されるまでの間、「銀の角兜亭」にて用心棒をすることになった。  これまでわかっている限り、押し込みはすべて酒場・酒屋が閉まったあとの真夜中に起こっている。そのため、当分の間マーシャが「銀の角兜亭」泊り込むことになり、店主一家は万一のことを考えて夜間は親戚の家を頼ることになった。 「そんなわけだから、次の稽古はいつになるやらお約束できないのです。しばらくは夜の間不寝番するゆえ、昼に眠ることになりますので。申し訳ありません、ミネルヴァ様」  ところは変わって桜蓮荘である。  いつもの稽古を終えたマーシャが、そうミネルヴァに謝罪した。 「お昼に眠るのはいつものことでは……でも、そのようなお仕事は警備部に任せておけばよいのでは?」 「ごもっともですが、警備部とて王都の隅々にまで目を光らせるのは至難でしょう」 「それは確かに……そうですわ、うちの家から人を出しましょう。先生にそんな危険なお仕事をさせるわけにはまいりません」  つい先日、マーシャが凶悪な通り魔事件を解決したことを知らないミネルヴァの言葉に、マーシャは苦笑を漏らす。 「フォーサイス家の方々の手を煩わせたとなると、店主が心労で胃を壊してしまいます。なあに、心配には及びませぬ。物取りごときに遅れをとる私ではないことは、ミネルヴァ様も重々にご存知のはず」 「わかりましたわ。でも、くれぐれもお気をつけになってくださいましね」  このときは、マーシャも「少しばかり風変わりな押し込み強盗」程度にしか考えていなかった。しかし、この強盗事件が、のちに大きな意味を持つようになることを、このときのマーシャはまだ知らない。
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