一 最強剣士と愛弟子

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「ミネルヴァ様、準備はよろしいか」 「はい」 「では、存分に打ち込んで参られよ」  ミネルヴァが木剣を手に取る。それは両手大剣を模した木剣で、地面からミネルヴァの胸元ほどまでの長さがある。剣身の内部には鉄の芯が通っており、真剣に近い重量となるように作られたものだ。  剣術を嗜んでいるとはいえ、うら若き乙女であるミネルヴァの腕力はたかが知れたものだ。長大な両手大剣よりも、速度をたのむ細剣、刺突剣のほうが本来彼女向きである。が、ミネルヴァは頑なに剣の種類を変えようとしない。  ミネルヴァは、刃の部分を肩に担ぐように構えた。変則的ではあるが、こうすることで肩を支点にして梃子の要領で一気に大剣を振り下ろすことができる。  マーシャの得物は、長さも太さもごくごく平均的な長剣を模した木剣である。これは基本的に片手で扱うものだが、状況によって両手に持ち換えることもある。身体をやや半身に開き、中段に構える。 「では、参ります」  ひゅうと短く息を吸うと、ミネルヴァは大きく踏み込んで一気に剣を振り下ろした。全身の筋肉を総動員した、渾身の一撃である。  唸りを上げ、マーシャの肩口目掛け袈裟懸けに迫る大剣は空を切った。 (いい一撃だ)  紙一重で斬撃を避けるマーシャ。剣が巻き起こす風圧で、前髪が揺れた。 「まだまだッ!」  振り下ろした剣の勢いをそのままに、ミネルヴァはその場で一回転しつつマーシャの胴を薙ぎにかかる。マーシャは冷静に後ろに跳び退ってこれを避けた。  一見剣の重量に振り回されているように見えるこの動きであるが、剣が振られるさいに生じる力をそのまま次の斬撃に転じることができるため、非力なミネルヴァに合った攻撃法なのだ。  表情にはおくびも出さぬが、マーシャは密かに感心する。こと武術においては一番伸びる年頃であるにせよ、最近のミネルヴァの成長は著しく感じられた。弛まぬ鍛錬を続けている証左である。
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