6人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
ミネルヴァは一旦剣を引くと、今度は刃に左手を添えて突きにかかった。マーシャは身体を捻って回避、しかしミネルヴァは剣先がマーシャの身体に届こうとするところでさらに踏み込み、手首を返した。突きはうねるように軌道を変え、マーシャの胸元に迫る。
「ふむ」
マーシャは動じず、下からの斬り上げで突きの剣先を逸らした。
本人としては意表をついた一撃のはずだったのだろう。それをあっさり凌がれ、ミネルヴァは悔しそうな表情を見せた。
(今のは私が教えた技ではないな。昔、試合で鉤槍使いが同じような技を使うのを見たことがあるが――よく工夫している。……ふむ、今日は少し段階を上げてみるか)
弟子の勤勉さに感心しつつ、マーシャは大きく間合いを取った。両腕をだらりと下げ、下段に構える。
「今度はこちらから参りますよ」
「どこからでも」
そう言うと、ミネルヴァはふたたび剣を肩に担ぐ。胴ががら空きになるが、小回りが利かない大剣はもとより守勢に回った場合不利である。攻撃こそが最大の防御であり、斬撃をもってマーシャを迎え撃つ構えだ。
「ふッ!」
短い呼気とともに、マーシャが踏み込む。その速いことといったら、さながら疾風の如し、である。されど、ミネルヴァとて長年マーシャに師事している身。この程度のことは想定内だ。
「鋭ッ!」
マーシャの足運びに集中していたミネルヴァは、マーシャの動作の起こりに合わせて斬撃を放つ。まさにどんぴしゃりの呼吸でマーシャを襲ったかのように見えたその一撃は、しかし地面を打った。受け太刀と同時に身体を捻ることで、マーシャは斬撃の軌道を逸らしたのである。
今度は、ミネルヴァの懐に入ったマーシャの間合いである。下段からの斬り上げで、ミネルヴァの脇腹を薙ぐ。
「くうッ!」
大剣を引いて防御していては間に合わぬと判断したミネルヴァ。片手のガントレットでマーシャの剣を受けた。
この国の剣術試合は、実戦性が重視される。得物と防具の種類、打撃の強さを鑑みた上で有効打かどうか判定されるがゆえに、たとえ一撃決まったとて即座に一本、というわけにはいかない。相手の得物の種類によるものの、遠い間合いでは大剣を振るい、近い間合いではガントレットで防御するというこの戦法は「あり」だと認められている。
最初のコメントを投稿しよう!