一 最強剣士と愛弟子

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 後ろに下がって自分の間合いに戻したいミネルヴァに対し、マーシャはぴったり追いすがり、同じ距離を保って連撃を繰り出す。  あるいは避け、あるいはガントレットで弾き、時には剣の柄も用いてマーシャの剣をしのぐミネルヴァだが、じりじりと壁際まで押し込まれてしまう。 (いかに先生といえども、これほどの連撃ならばどこかで呼吸を整える瞬間があるはず――!)  ミネルヴァがそう考えていた矢先、マーシャの猛攻が一瞬途切れた。ほんのわずかではあるが、胴に隙が見える。 「ッ!? そこッ!」  大剣を引き寄せ、腰を回転させて斜め下から斬り上げる。マーシャもこれを受けるが、重さのある一撃に剣は弾かれ宙を舞った。  思わず、ミネルヴァの胸が高鳴る。憧れのマーシャから、一本取る寸前のところまできたのだから無理もない。  しかしここでミネルヴァに迷いが生じた。このままマーシャを攻めるか、それともマーシャが取り落とした剣を抑えるか。現状無手のマーシャに一撃を加えれば即座に一本だ。しかし、それを避けられ剣を拾われると、状況は振り出しに戻ってしまう。  ミネルヴァが悩んだのは、実際刹那にも満たぬわずかな時間だ。しかし、マーシャほどの達人を相手取るとなるとその刹那が命取りとなる。 「一手、遅れましたね」  ミネルヴァが気付いたときには、マーシャはすでに息がかかるほどの距離にまで肉薄しており、ミネルヴァの両手首はがっちりと捕らえられていた。  マーシャが身体を捻ったかと思うと、ミネルヴァの天地は逆転し――一瞬遅れて背中に大きな衝撃が走った。さらに一瞬遅れて、ミネルヴァはマーシャの投げによって地面に叩きつけられたのだと悟る。  マーシャはミネルヴァの手から離れた大剣を奪うと、いまだ立ち上がれぬミネルヴァの胸元に突きつけた。 「……参りました」  これにはミネルヴァも降参するほかない。マーシャの手を借り、土ぼこりを払いながら立ち上がる。
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