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そう、殴りつけたのだ。
――殴打? ナイフで?
疑問はすぐに解けた。アリアが手にしているのは件のナイフでなく、ビール瓶だった。彼女は瓶の細い首部分を握り手とし、その底を次郎の頭に叩き付けたのだ。
それは昔のコメディ映画で使われる砂糖細工のように壊れることもなく、男に確実な打撃を与えていた。それをアリアは何度も次郎の頭部に叩き付けたのだ。
何度も……何度も……
その光景は、もはや完全に殺人事件そのものだった。
俺には見えていないが、相当、流血も起きていることだろう……
アリアはそれで終わりにするつもりはなかった。
今度は、出しっぱなしだったのか、宣伝のぼり用の錘を持ち上げたのだ。
か細い少女が10㎏程の錘を、蹲る次郎の側までやっとの思いで運ぶと、あろう事か、次郎の頭上目掛けて思い切り落としたのだ。
俺は顔を伏せた。この惨状をこれ以上、直視することは出来ない。足が動けば、この場から逃げ出していただろう。
ひときわ鈍い音がした。明らかに何かが潰れた音だった。
その後、アリアは今度こそナイフを手にしていた。
とどめを刺すつもりだろう。
そう、次郎はまだ生きていたのだ……
「もう許して……」
と云うかすかな声が聞こえた……
無論、少女は闇の輩を許すつもりはない。
アリアは逆手に持ったナイフ――名前があった気がしたが、もうナイフでいいだろう……を、天に掲げ、叫びながら次郎に向けて振り下ろした。
「な、汝、光に帰れぇ―――!!」
――ここだけ[それっぽく]言われても……
その時、不思議なことが起こった。
「おのれ……天の星々め、我らは、不滅ぞ!!」
これまで、情けない声を上げ続けた次郎が、最後だけ格好つけた断末魔を残し、光の粒子となって消滅していった。
そう、消滅していったのだ。
あの宣言通り、塵一つ残さず、何もかも消え去っていったのだ。
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