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……などと心で呟いてみたところで、気が晴れるわけではない。
仕事帰りの電車、気まぐれで乗ったグリーン車の窓から、空を見上げて星々に思いを馳せてみても、思い起こすのは、いつも通りの日常風景……
毎日毎日、通勤列車にゆられて職場に向かい、仕事に追われ、頭を下げ、へとへとに疲れて帰宅する毎日……
そう、冒頭の壮大な前振りなど全く関係ない、平々凡々とした生活を送る、特に何も取り柄が無く、それなりに高校を卒業し、気が付くと就職、暫く務めてから今の仕事に鞍替えし、現在を生きるだけの俺である。
学生の頃は、アニメやらラノベに嵌っていたものだったが、今ではすっかり社会人と成り果てていた。
――俺も、ラノベ主人公みたいな[出会い]が無いものか……
夜空を見上げながら、そう思ったものだ。
願ったわけではない。
そう思った切掛けは、自分の斜め前の席に、一人の女子高生が座ったことだった。
こんな時間に不自然ではあるが、間違いなくブレザーを着た少女である。
如何にも夜遊びを楽しむような娘にも見えない。至って清楚な女子高生と云った出で立ちなのだ。
もし、これがラノベの類なら、何かしらの物語が始まるを告げる前兆となるのであろうが、現実、そんなことが起こるはずもない。おそらく、あの少女はたまたま帰りが遅くなったのだろう。
車内に停車駅を知らせるアナウンスが流れてきた。リズミカルなメロディに続いて日本語と英語による駅名、そして車掌より乗り換えの案内が続く。
我が生まれ故郷であり、[カクテル][妖精][ジャズ]など、色々な肩書きが並ぶ我が町に到着したのである。
今の我が家のある場所は、都心から程良く遠い、県庁所在地。
[宇宙の都]と呼べなくもない地名だが、実の所、田舎と言うほどではないが、都会と言い切れるものではない。
そんな地名だからではないが、今宵、満天の星空に思いを馳せている俺である。
そんな時だった。俺があの、恐ろしい事件に遭遇したのは……。
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