本篇

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 輝く光の剣を前に、マント男もまた動じることなく、こちらは地面に向けて掌を翳す。こいつも何かを呼び出すというのだろうか…… 「……我が名、田中次郎の名において地の底に潜む我が盟主に願う……我の懇願に応じ、その姿を現出せしめたまえ……漆黒を越える闇……内包したる虚無を今こそ現世に解き放たん……」  ――え? 田中次郎?  正直拍子抜けした。  星ノ宮アリアと違い、こちらはあまりにも普通の名前だったからだ。てっきり、こちらも[転生名]とかを名乗ってくるのかと思ったのだが、まさか、ここに来て本名とは……  全国の田中次郎氏に申し訳ないとは思うが、敢えて言わせて欲しい。  ――似合ってねえ……  しかし、男――田中次郎の名を以て、不気味な光を放つ魔法陣より現出した漆黒の剣は、俺を再び戦慄させるに十分な代物だった。  やはりこちらも短剣なのであるが、漆黒を塗り固めて作られたような拵えに、同じ貴石でも、禍々しさを伴う紫の輝きを放つ宝飾が、何故か、吸い込まれそうな魅力を放っていた。  ――この波動に呑み込まれたら、心が取り込まれる!  俺は反射的にそう思った。  男――田中次郎もまた、鞘から剣を抜き、銀色の複雑な文様が刻まれた黒い刀身の切っ先を向けて宣言する。 「[虚星覇王剣]……全てを取り込み、[無]へと帰する、黒き星の邪剣…… [魔王ルシファーサタン]に授けられたこの力で、そのか細き身体を切り刻み、二度と転生できぬよう、地獄の業火で焼き尽くして見せよう!」  ――ルシファーサタン!?  いや、ルシファーとサタンは別々の存在だから、無闇にくっつけちゃ駄目だろ……  それと、確かさっきは闇とか虚無とか言ってたような……その業火、どこから出てきた?  これもまた、呑気に呆れている場合ではなかった。  ツッコミ処はあるものの、二人は今、本当にそれぞれ天と地から剣を召還したのだ。幻ではなく本当に俺の目の前で……  そう、これから始まるのは、ラノベでもコミックでもアニメでもない、本物の[世界の命運をかけた光と闇の壮絶な戦い]なのだ。
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