46人が本棚に入れています
本棚に追加
輝く光の剣を前に、マント男もまた動じることなく、こちらは地面に向けて掌を翳す。こいつも何かを呼び出すというのだろうか……
「……我が名、田中次郎の名において地の底に潜む我が盟主に願う……我の懇願に応じ、その姿を現出せしめたまえ……漆黒を越える闇……内包したる虚無を今こそ現世に解き放たん……」
――え? 田中次郎?
正直拍子抜けした。
星ノ宮アリアと違い、こちらはあまりにも普通の名前だったからだ。てっきり、こちらも[転生名]とかを名乗ってくるのかと思ったのだが、まさか、ここに来て本名とは……
全国の田中次郎氏に申し訳ないとは思うが、敢えて言わせて欲しい。
――似合ってねえ……
しかし、男――田中次郎の名を以て、不気味な光を放つ魔法陣より現出した漆黒の剣は、俺を再び戦慄させるに十分な代物だった。
やはりこちらも短剣なのであるが、漆黒を塗り固めて作られたような拵えに、同じ貴石でも、禍々しさを伴う紫の輝きを放つ宝飾が、何故か、吸い込まれそうな魅力を放っていた。
――この波動に呑み込まれたら、心が取り込まれる!
俺は反射的にそう思った。
男――田中次郎もまた、鞘から剣を抜き、銀色の複雑な文様が刻まれた黒い刀身の切っ先を向けて宣言する。
「[虚星覇王剣]……全てを取り込み、[無]へと帰する、黒き星の邪剣……
[魔王ルシファーサタン]に授けられたこの力で、そのか細き身体を切り刻み、二度と転生できぬよう、地獄の業火で焼き尽くして見せよう!」
――ルシファーサタン!?
いや、ルシファーとサタンは別々の存在だから、無闇にくっつけちゃ駄目だろ……
それと、確かさっきは闇とか虚無とか言ってたような……その業火、どこから出てきた?
これもまた、呑気に呆れている場合ではなかった。
ツッコミ処はあるものの、二人は今、本当にそれぞれ天と地から剣を召還したのだ。幻ではなく本当に俺の目の前で……
そう、これから始まるのは、ラノベでもコミックでもアニメでもない、本物の[世界の命運をかけた光と闇の壮絶な戦い]なのだ。
最初のコメントを投稿しよう!