46人が本棚に入れています
本棚に追加
アリアと次郎……
宣言の後、互いに剣を構えたまま、睨み合いが続いた。
やがてアリアが焦れたのか、じりじりと横に一歩ずつ動く。その顔には緊張とも恐怖とも取れる表情が汗と共に浮かんでいた。
対する次郎は、一見余裕の表情で、その場から動くことなく視線だけでアリアの動きを追い続けていたが、やがて耐えきれなくなったのか、こちらも一歩、足を横に踏み出すものの……
「うわっ!」
突如よろけた。まるで、段差に足を取られたように……
いや、本当に足を取られたのだ。
あろう事か次郎は、自身の背を高く見せるため、ビールケースを台にして登っていただけだった。おそらくは自分でそれを忘れ、アリアの動きに合わせて思わず踏み出してしまったのだろう。
それは、アリアに攻撃の機会を与えた。
ナイフを両手でしっかりと握り、それを腰溜めに構えたアリアは、
「覚悟!」
と、辛うじて転倒を避けた次郎に向かって突っ込んでいく。
迫力も何もない、所謂[女の小走り]で
――あー、これ見た事ある……
思い出したのは、時代劇とかで、武家の娘が親の仇に向かっていくシーンだ。
転生者同士による聖剣と邪剣が激突する激しい戦いに於いて、そんな表現はどうかと思われるだろうが、そこはご勘弁願いたい。何せ、本当にその通りなのだから。
男に駆け寄る少女の姿は、それほどまでに、迫力というものに欠けた姿なのだから……
それに対し次郎はと云うと、少女の繰り出す刃から逃れようと、
「笑止!」
などとマントを翻して華麗に躱そうとしたのだろうが、丈の長いマントの裾に自分の脚を引っ掛け、今度こそ転倒してしまうのだから始末に悪い。結果的にはナイフを回避したことにはなるのだが……
正直な感想を言えば、何とも[みっともない聖戦]である。
想像していたような超人的能力は何処にもなく、また、永きに渡って争ったわりには、武術の心得や経験など微塵も感じさせない。
これはどう見ても、素人以下の戦い、と云うより、争いだった。
喧嘩と呼ぶにも情けない。
人のことを言えた口ではないが、さっきの前振り、いらないよね……
最初のコメントを投稿しよう!