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1. 既視
昼下がりの湖周道路、初夏の日差しが水面に踊っている。
助手席に座った妻の携帯電話が、メールの着信を知らせた。
「瀬尾さんからよ。もう合宿所に着いたって」
「そう、わかった。こちらももうすぐ着くって、そのメールに返信しておいて」
「あ、写真が添付されてるわ。ほら、これ、息子さんの隆史君。また背が高くなってる。しかも、奥さん似のキリッとしたイケメン!」
前方のトラックとの車間距離を計っていたオレの視界に、携帯電話を持った妻の手が割り込んでくる。
「危ないって。運転中は見れないよ。ってか、もうすぐ本人に会えるのに、なんでいま写真やり取りする必要があるの?」
「いいじゃない。毎年の恒例行事、あちらも楽しみにしてくれてるんだから」
「一番楽しみにしてるのは、君だと思うけど」
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