記憶の無い七面鳥

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「ダメか、ここの払いをつけにしても、 タクシー代が足らないなぁ。 まったく貧乏サラリーマンだよ、俺は」  と諦めてボックス席で歌う人の歌を聴くとは無しに聴いていた。 知らないなぁ~、若い人の歌だ。 まったく、あんなのが何が良いのやら。  俺はタメ息しか出なかった。 ジェネレーションギャップて奴かい? 俺も年をとったなと、思ってしまった。  そして、仕方無く酒を飲んでいた。  そうこうしているうちに、時間も過ぎお客が一人また一人と減って行き。時間は、閉店1時間前になっていった。  客は既に3人にまで減っていた。 こりゃチャンスと、最後に歌でも歌って締めるかと思ってマイクを握ると。  俺の後ろの方の玄関がカランカランと音を出して開いた。振り返ると女性が立っていた。  ふん?スーツ姿のスカートを履いた人 おっ、美人だ、スタイルも中肉中背。 フムフム中々いい感じ、新人さんかな? それとも待ち合わせ?  俺は彼女の顔を繁々と見ていた。 すると、その女性はつかつかと俺の隣にやって来て。ニコニコ俺の顔を見ながら笑い、椅子に座った。  チイママの美加が、 「いらっしゃいませ。 あら~、森木さんの彼女さんですか?」 と、おしぼりを渡し、 セットのつまみ盆を出した。 「何に、なさいます~?」 と美加がその人に聞くと。  黙ったまま、俺のボトルをジーッと見た。 えっ?俺の飲むのぉ~。 この貧乏人のボトルを?まあ、いいか。 俺は格好をつけて、 「一杯、作ってやって」 と美加に言った。 美加は、ははぁ~んと言う顔で俺を見て、 笑った。 違うから、知らないからと焦っていると。  回りにいた2つ隣のサラリーマンが沈黙から再び話を始めた。 ありゃ注目されてた、あはは。  カランとグラスに氷が入るの音がして、 ボトルからトクトクと酒が注がれ、彼女の前にトンと置かれた。 彼女はまだ、一言も喋らない。 堪らなくなった俺は、 「あの~、何処かでお会いしましたっけ?」 と聞くと。  彼女は急に暗い顔になり、酒をグイッと、 一気に飲んだ あっ!ダメダメ!どんな酒豪か知らないけど。酔っぱらうぞ~!と心配していると。 存外平気な顔をしている。 ああ~、酒豪なのね~。  俺はタメ息をついた。
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