願う少女

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次の日の夜、私が用事で屋上に行くと結衣ちゃんがいた。 昨日と全く同じ場所で同じように祈っていた。 私とすれ違った顔見知りの患者さんが教えてくれた。 「あの子、ずっとあそこでお祈りしてたよ」 結衣ちゃんの傍まで行くと気がついた彼女が振り返った。私は話しかけた。 「結衣ちゃん、パパのこと、大好きなんだね」 「うん」 「大丈夫だよ、結衣ちゃんの願いはちゃんとお星様に届いているから」 「ホント?」 「ホントだよ」 「でもパパ、おへんじしてくれないから…」 その時は子供である結衣ちゃんが、隆さんの意識がないことを、 まだよく理解できていないから、そう言ったのだと思った。 結衣ちゃんはいつものように両手を胸の前あたりで組んでいたが、 長袖の先から少しだけ腕が覗いていた。 ハッとした私は結衣ちゃんの右手を掴んで袖を捲った。 「これは!!」 彼女の腕にはあざや火傷の痕が複数あった。硬いもので殴ったり、 煙草の火を押し付けてできたものだと直感した。 結衣ちゃんは私の手を振り払うとその場を走り去って行った。 間違いなく虐待だ。隆さんだろうか?いや、結衣ちゃんがあんなに無事を願う 大好きな父親がそんなことをしているはずはない。 だったら久美子さんがやったのだろうか?彼女だって優しいお母さんにしか見えない。 だが、育児ノイローゼで子供を虐待してしまう母親がいると聞いたことがある。 久美子さんもそうなのだろうか? 私には分からなかった。しかし結衣ちゃんを虐待した犯人を捜している余裕はなかった。
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