265人が本棚に入れています
本棚に追加
櫓の真下をのぞきこんで、声を張る。
「鉄平、天気! 天気読めたよ! 今日は北西の風二メートル、昼間は気温高めの晴天、午後から夕方にかけて雨雲が出て一気に寒くなるよ! 鉄平、変なもの食べたらお腹壊すから気をつけてね!」
「バッキャロウ! 変なもんとか食うか、バカ紗也!」
鉄平と呼ばれた少年の怒声に紗也はまたもひっくり返りかけた。坊主頭の彼の顔は真っ赤になって眉を「逆八の字」に寄せている。
「でも鉄平、十三歳の誕生日に機械兵の油飲んで死にかけたって……」
「あん時ゃ腹減りすぎて見境なくしてたんだよ! 黒歴史掘り起こすんじゃねぇ!」
櫓の上まで飛んでくる鉄平の怒鳴り声。手で塞いでも耳鳴りが残る。こちらを見上げる鉄平の顔は白いシャツのせいで余計に赤く見える。
(ベニカブそっくり……)
と紗也はひそかに野菜にたとえてみた。ごつごつした顔がちょうど村の作物みたいに角張っていて愛嬌があるのだ。
鉄平がひとしきりガミガミし終えた頃を見計らい、紗也は空見櫓から降りた。
「えへへ、待たせてごめんね、鉄平」
指をもじつかせながら上目がちに言う。相手の背丈は紗也より頭二つ分ほど大きいため今度は紗也が見上げる形になる。
……笑ってごまかせたりしないだろうか?
「おそい!」
「ひぃっ、ごめんなさい!」
そういうのは効かない性格だったと、改めて思った。
「村のみんなが働き始める前に空読は終えとくもんだって言ってんだろ! もう昼前だぞ、もっと早くなんねえのか!?」
「あははぁ……頑張ってるんだけどまだ慣れないや。ごめんなさい、紗良お姉ちゃんみたいにできなくて」
鉄平は愛想もなくフンと口をへの字に曲げた。
「謝るならさっさと出来るようになれってんだ。空読はお前しかできねえんだから」
鉄平は数歩先に転がっている木剣を拾い上げ大儀そうに振り向いた。機嫌の悪そうな表情に紗也はびくっと肩をすくめる。鉄平はその反応を見てきまりが悪そうにため息をつき、
「転んだの、大丈夫だったか」
と言った。
「えっなんで知ってるの! まさか見てた?」
「バカ言え。櫓の上であんなデカい音鳴らしてたらそりゃ気づくだろ」
「それもそっか、あはは」
「……紗也、お前は自分をもっと大事にしろ。それはお前だけの体じゃないんだからな」
「うん、がんばる!」
紗也はぱっと笑顔になって答えた。
最初のコメントを投稿しよう!